インバウンドの話になると、まず中国の名前が挙がります。人数が多いからです。ただ、台湾だけ、香港だけを見ていると、盲点が生まれます。
ただ、台湾と香港は足して考えることができます。 書かれている文字が同じ繁体字なので、ウェブやSNSの発信は、かなりの部分を同時に届けられるためです。
実際に足してみると、数字の見え方が変わります。
台湾と香港を足すことで見えてくる数字
2025年に日本を訪れた人の数です。
| 国・地域 | 2025年 | 前年比 |
|---|---|---|
| 韓国 | 946万人 | +7.3% |
| 中国 | 910万人 | +30.3% |
| 台湾+香港 | 928万人 | — |
| 台湾 | 676万人 | +11.9% |
| 香港 | 252万人 | -6.2% |
| 米国 | 331万人 | +21.4% |
| 総数 | 4,268万人 | +15.8% |
出典:日本政府観光局(JNTO)「2025年 国籍別/目的別 訪日外客数(確定値)」。台湾6,763,424人、香港2,517,399人、中国9,095,931人、韓国9,459,711人、総数42,683,301人。
台湾676万人と香港252万人を足すと928万人。中国の910万人を上回ります。単独では3位と5位ですが、合わせれば中国より大きい市場です。
香港は2025年、主要な市場のなかで唯一、前年を下回りました(-6.2%)。ただし2026年は戻しています。
2026年は、差がさらに開いています
2026年1月から8月までの累計です。
| 国・地域 | 2026年1〜8月 | 前年比 |
|---|---|---|
| 韓国 | 742万人 | +21.2% |
| 台湾 | 540万人 | +19.8% |
| 中国 | 290万人 | -56.7% |
| 米国 | 231万人 | +6.1% |
| 香港 | 182万人 | +8.7% |
出典:JNTO「訪日外客数(2026年8月推計値)」(2026年9月16日発表)。累計は台湾5,402,000人、香港1,818,300人、中国2,904,600人。
中国が半分以下になり、台湾が2位に上がりました。 台湾と香港を足すと722万人で、中国290万人の約2.5倍です。台湾・香港とも、8月としては過去最高を記録しています。
数字は年によって動きます。ただ、中国1本に寄せたときの振れ幅の大きさと、台湾・香港の安定は、この2年の数字にはっきり出ています。
お金の使い方は、香港のほうが大きい
1人が日本での旅行1回に使った金額です。
単位:円
内訳です。
| 国・地域 | 飲食費 | 買物代 |
|---|---|---|
| 中国 | 51,581円 | 91,457円 |
| 香港 | 54,361円 | 68,917円 |
| 全国籍・地域の平均 | 50,221円 | 61,136円 |
| 台湾 | 40,169円 | 60,079円 |
| 韓国 | 28,660円 | 25,639円 |
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(2026年3月31日公表、図表2-7)。一般客の1人あたり旅行支出です。
香港の1人あたり支出は226,011円です。 全体の平均(228,782円)とほぼ同じ水準で、台湾より4万円ほど高くなります。飲食費は54,361円で、中国の51,581円や全体の50,221円を上回ります。
そして、いちばん目を引くのは韓国です。1人あたり105,058円で、香港の半分以下。全体平均の46%にとどまります。買物代は25,639円で、香港の3分の1、台湾の4割ほどです。
理由のひとつは滞在の短さです。韓国の平均泊数は4.0泊で、台湾の6.5泊、香港の6.2泊の6割ほどしかありません。距離が近く、週末に何度も来られることの裏返しでもあります。
背景には所得の差があります。香港の1人あたりGDPは56,893ドルで、日本の35,973ドルの約1.6倍です。
出典:IMF World Economic Outlook(2026年4月版)。2025年の名目、米ドル。
台湾の184,413円は平均を下回ります。ただし人数が多いので、市場としての規模は大きいです。2025年の旅行消費額は台湾が1兆1,958億円、香港が5,608億円。合わせて1兆7,566億円になります。
何度も来ている人たちです
ここが、この2つの市場のいちばんの特徴です。
単位:%
- 初めての来日
- 10回目以上
2回目以降は台湾87.9%、香港90.6%。前回の来日が1年以内だった人も、台湾55.7%、香港65.2%にのぼります。
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(図表1-5〜1-7)
香港は、初めて日本に来る人が9.4%しかいません。 10回以上来ている人が38.4%で、3人に1人以上です。台湾も10回以上が26.4%。どちらも、調査対象21の国と地域のなかで上位です。
これは発信の中身に直結します。「日本はこんなにいいところです」という紹介は、この層にはほとんど効きません。すでに何度も来た人に、次にどこへ行くかを選んでもらうのが、実際にやることです。
なお、また日本に「必ず来たい」と答えた人の割合は台湾が85.2%、香港が78.3%。どちらも全体の77.9%を上回ります。
旅の組み立ては、台湾と香港で逆になります
同じ繁体字圏でも、ここは正反対です。
| 台湾 | 香港 | 韓国 | 全体 | |
|---|---|---|---|---|
| 団体ツアー | 17.8% | 5.5% | 6.6% | 9.6% |
| 個別手配 | 77.5% | 90.5% | 90.9% | 87.2% |
| 申込がウェブ経由 | 85.1% | 91.8% | 81.5% | 83.5% |
| 平均泊数 | 6.5泊 | 6.2泊 | 4.0泊 | 9.5泊 |
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(図表1-3、1-10、1-11)
東アジアの主要な市場のなかでは、台湾の団体ツアーの比率がいちばん高くなります(17.8%。中国12.0%、韓国6.6%、香港5.5%)。旅行会社に商品を置いてもらう意味が、ほかの市場より大きいということです。台湾の旅行展に日本の自治体が並ぶのも、ここに理由があります。
一方の**香港は個別手配が90.5%**で、申込の91.8%がウェブです。旅行会社を通さず、自分で調べて自分で予約します。
同行者にも差があります。台湾は家族・親族と来る人が44.7%で、全体の31.4%を大きく上回ります。香港は36.8%でした。
行き先と、買う物が違います
訪問した都道府県の上位です(複数回答)。
| 順位 | 台湾 | 香港 |
|---|---|---|
| 1 | 東京都 31.0% | 東京都 35.8% |
| 2 | 千葉県 26.9% | 千葉県 31.5% |
| 3 | 大阪府 23.7% | 大阪府 28.5% |
| 4 | 京都府 15.4% | 京都府 15.6% |
| 5 | 沖縄県 14.5% | 福岡県 15.5% |
| 6 | 北海道 10.0% | 愛知県 7.3% |
| 7 | 福岡県 9.7% | 沖縄県 7.1% |
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」統計表(国籍・地域別 都道府県別訪問率)。千葉県が高いのは成田空港が含まれるためです。
台湾は沖縄が14.5%で、香港の2倍です。 逆に香港は福岡が15.5%で台湾より高く、大分も4.9%。九州に強い市場です。
ここで中国を並べると、違いがはっきりします。中国は大阪57.3%、東京50.3%、京都38.9%。3つの都市に集中しています。
地方まで足を延ばしているのは、台湾と香港のほうです。 沖縄、北海道、九州に自分たちの地域があるなら、まず見るべきはこの2市場になります。都道府県ごとの詳しい見方は、台湾人はどの県に来ているのかにまとめています。
買う物も少し違いがあります。
| 品目 | 台湾 | 香港 | 中国 |
|---|---|---|---|
| 菓子類 | 79.0% | 70.7% | 76.4% |
| 衣類 | 52.6% | 55.9% | 45.4% |
| 医薬品 | 43.9% | 32.0% | 34.1% |
| 化粧品・香水 | 35.0% | 38.5% | 54.4% |
| 健康グッズ・トイレタリー | 28.2% | 14.7% | 20.1% |
| 靴・かばん・革製品 | 28.6% | 31.4% | 26.8% |
| 生鮮農産物 | 10.0% | 8.5% | 4.8% |
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(図表3-1)。購入率は、その費目に支出した人の割合です。
台湾は、医薬品・健康グッズ・生鮮農産物の購入率が主要な市場で最も高いという特徴があります。香港は衣類と靴・かばんで、1人あたりの単価が高くなります(靴・かばんは購入者単価47,274円)。中国は化粧品・香水が54.4%と突出していて、買う物の中心が違います。
届く媒体が、ほぼ重なります
ここが、台湾と香港を同時に進められる2つ目の理由です。
単位:%
- 台湾
- 香港
出典:DataReportal「Digital 2026: Taiwan」・「Digital 2026: Hong Kong」(いずれも2025年11月発行、2025年10月時点のデータ)。各社の広告ツールが示す到達可能人数を、総人口と比べた割合です。利用率そのものではありません。
顔ぶれが同じです。 YouTube、Facebook、Instagram、Threads。どれも両方の市場で使えて、どちらも人口の半分以上に届きます。検索もGoogleです。
中国本土と比べると、この意味がはっきりします。中国ではFacebook、Instagram、YouTube、Googleのいずれにも接続できません。微信、微博、小紅書、百度という別の面を、別のアカウントで、別の運用体制で回すことになります。
違いが出るのは、配分だけです。台湾はFacebookが74.9%と厚く、香港はFacebookとInstagramが拮抗します。別の媒体を用意するのではなく、同じ媒体の予算の置き方を変えるという調整で足ります。
台湾でのThreadsの使い方は台湾のThreads広告に、媒体ごとの費用は台湾向け広告の媒体と費用に書きました。
なお、香港でよく使われるWhatsAppや小紅書は、各社が広告の到達人数を公開していないため、この表には入っていません。
言葉は「書く文字は同じ、話す言葉は別」です
台湾と香港を足して考えられる理由が、ここにあります。
- 香港:中文と英文が法定語文。家庭や日常で使う言葉は広東語で、2021年の人口普查では慣用語の88.2%を占めます
- 台湾:共通語として華語(國語)が使われます。国家語言発展法は、台湾の各族群の言語と台湾手話をすべて対等な「国家語言」と定めていて、公用語を1つに絞ってはいません
出典:GovHK「Hong Kong – the Facts」、香港政府統計処「2021年人口普查 主要結果」、國家語言發展法(2019年公布、主管機関は文化部)
書いた文字はどちらも繁体字です。 だから、ウェブページやSNSの投稿は、同じ方向で設計できます。
ただし、細かいところは同じではありません。単語や言い回しには違いがあり、香港には広東語を書くための字もあります。同じ繁体字でも、そのまま同じ文章になるわけではない、ということです。
どこを一緒にして、どこを分けるか
ここまでの数字を、実務の判断に置き換えます。
一緒にできるのは、繁体字で作るもの
ウェブページ、SNSの投稿、動画の字幕、パンフレット。作る物は共通の土台に乗せられます。 予算を1つにまとめて確保し、繁体字で1本作る。ここが、台湾と香港を足して考えるいちばんの利点です。
厳密には、最後のネイティブチェックで枝分かれさせるのがいちばん無駄がありません。原稿も構成も共通のまま進め、仕上げの段階で台湾向けと香港向けに分ける。作り直すのではなく、整えるだけで済みます。
分けるのは、届け方
SNSはほぼ同じです。違うのはメディアです。 台湾のニュースサイトや旅行メディアと、香港のメディアは別物なので、露出させる先はそれぞれ選びます。
旅行の組み立ても違います。台湾は団体ツアーが17.8%あり、旅行会社と旅行展が効きます。香港は個別手配が90.5%で、本人に直接届ける設計になります。
行き先で、優先順位が決まる
沖縄や北海道なら台湾から。九州なら香港の比率が上がります。自分の地域にどちらが多く来ているかで、先に手を付ける市場が決まります。
具体的な施策は、台湾向け広告の媒体と費用、台湾のKOL・KOCの選び方、台湾の旅展にまとめています。
この記事が当てはまらない場合
- 初めて日本に来る人を増やしたい場合: 台湾と香港は、すでに来たことがある人が9割の市場です。新規の開拓が目的なら、ほかの市場のほうが向きます
- 中国本土も同時に狙う場合: 文字が簡体字になり、使う媒体も検索エンジンも全く異なります。中国本土の施策は繁体字圏とは全く別の設計が必要です
- 英語圏からの誘客が主目的の場合: 香港は英語も法定語文ですが、日常で使う言葉は広東語です。英語のページがあれば足りる、とはなりません
まとめ
台湾676万人と香港252万人を足すと928万人。単独では3位と5位でも、合わせれば中国より大きい市場です。2026年は中国が半減し、その差はさらに開いています。
1人あたりの支出は香港が226,011円で全体の平均並み、台湾は184,413円で人数の多さが市場規模を作っています。訪日者数で1位の韓国は105,058円で、消費額でも台湾に届きません。人数の順位だけで市場を選ばないことです。
そして、この2つの市場の9割近くはリピーターです。10回以上来ている人が、香港で38.4%、台湾で26.4%。東京、大阪、京都は、すでに見た人たちです。
だから、次に行く先を探しています。中国が大阪・東京・京都の3都市に集中しているのに対し、台湾は沖縄14.5%、香港は福岡15.5%と、地方まで足を延ばしているのはこの2つの市場でした。台湾からは地方空港への直行便も増えています。
つまり、東京から遠い地域ほど、この2市場を見る意味が大きいということです。知名度で東京や京都と張り合う必要はありません。「まだ行っていないところ」を探している人に、自分の地域を見つけてもらえばいい。そこに繁体字で1本作れば、928万人の市場に同時に届きます。
次の手法編では、この2つの市場に実際にどう配信し、どう予算を割るかを扱います。どちらの市場に力を入れるかは、商材と地域によって変わります。ご相談の中で一緒に選びましょう。

