目次4章 / 10項目
  1. 第1章:台湾人の訪問先は、全体の平均と形が違う
  2. ① 三大都市圏への集中度が、全体より15〜20ポイント低い
  3. ② 台湾が全体を上回る県は、沖縄を筆頭に東北へ続く
  4. ③ ただし、訪問率が低い県は標本が小さい
  5. 第2章:なぜそうなるのか。移動手段のデータが説明する
  6. ① 交通費の内訳で、台湾が平均を上回るのはレンタカーだけ
  7. ② 団体客の影響を除いても、傾向は残る
  8. ③ Japan Rail Passは、思ったほど差が出ない
  9. 第3章:自治体・DMOの設計を、どこから変えるか
  10. まとめ

自治体やDMOでインバウンドを担当していると、必ず同じ問いに戻ります。うちの県に、台湾からの旅行者は来ているのか。

観光庁の調査には、国籍・地域別の都道府県別訪問率という表があります。2025年の年間値を開くと、台湾の訪問先は全体の平均とかなり違う形をしていました。

結論を先に書きます。台湾人は、東京・大阪・京都への集中度が全体平均より15〜20ポイント低い。そのぶん地方に出ています。そして、その移動は鉄道ではなく車で起きています。

前提として、市場の大きさを押さえておきます。2025年に日本を訪れた台湾からの旅行者は648万4,286人(クルーズ客を除く一般客)。旅行消費額は1兆2,033億円で、国・地域別では中国に次ぐ2位、全体の12.7%を占めます。1人当たりの旅行支出は184,413円、平均泊数は6.5泊です。

以下の数字はすべて観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年年間の集計表から取りました。目的別の区分は【観光・レジャー目的】に統一しています。台湾の標本は15,242人、全国籍・地域は87,463人です。

第1章:台湾人の訪問先は、全体の平均と形が違う

① 三大都市圏への集中度が、全体より15〜20ポイント低い

訪問率は、その県を訪れた人の割合です。1回の旅行で複数の県を訪れるため、合計は100%を超えます。人数ではないので、実数に換算するときは同じ集計表の表6-1(全目的の都道府県別訪問率)を使ってください。

いわゆるゴールデンルートの訪問率

単位:% 訪問率は複数回答のため合計は100%を超えます

  • 台湾
  • 全国籍・地域
東京都東京都東京都 台湾: 29.429.4東京都 全国籍・地域: 48.448.4千葉県千葉県千葉県 台湾: 2626千葉県 全国籍・地域: 34.434.4大阪府大阪府大阪府 台湾: 23.623.6大阪府 全国籍・地域: 43.843.8京都府京都府京都府 台湾: 15.815.8京都府 全国籍・地域: 32.232.2奈良県奈良県奈良県 台湾: 3.73.7奈良県 全国籍・地域: 9.89.8

東京都は台湾29.4%に対し全体48.4%。大阪府は23.6%に対し43.8%。京都府は15.8%に対し32.2%。いずれも台湾が大きく下回ります。奈良県も3.7%対9.8%で、差は6.1ポイントです。

数字が近いのは千葉県で、26.0%対34.4%。成田空港と東京ディズニーリゾートを含む県なので、他の三大都市圏よりは差が小さくなります。

誤解のないように書いておくと、台湾人が東京に来ていないわけではありません。29.4%は依然として47都道府県で最も高い数字です。言いたいのは水準ではなく偏りです。全体の平均を押し上げているのは初めて日本に来る層で、その人たちはゴールデンルートをたどります。台湾はリピーターの比率が高く、その分だけ行き先が散っています。

② 台湾が全体を上回る県は、沖縄を筆頭に東北へ続く

反対に、台湾の訪問率が全国籍・地域の平均を上回る県を並べます。

台湾の訪問率が全体平均を上回る県

単位:% 差が大きい順に8県

  • 台湾
  • 全国籍・地域
沖縄県沖縄県沖縄県 台湾: 15.315.3沖縄県 全国籍・地域: 6.16.1宮城県宮城県宮城県 台湾: 4.34.3宮城県 全国籍・地域: 1.41.4北海道北海道北海道 台湾: 10.410.4北海道 全国籍・地域: 7.97.9山形県山形県山形県 台湾: 2.42.4山形県 全国籍・地域: 0.70.7富山県富山県富山県 台湾: 2.52.5富山県 全国籍・地域: 0.90.9岐阜県岐阜県岐阜県 台湾: 55岐阜県 全国籍・地域: 3.53.5岩手県岩手県岩手県 台湾: 22岩手県 全国籍・地域: 0.50.5熊本県熊本県熊本県 台湾: 3.63.6熊本県 全国籍・地域: 2.22.2

最も差が大きいのは沖縄県で、15.3%対6.1%。9.2ポイント上回ります。台湾からの距離を考えれば納得のいく結果です。

注目したいのはその次です。宮城、山形、岩手、青森と、東北がまとまって並びます。宮城県は4.3%対1.4%で、全体平均の3倍です。山形県は2.4%対0.7%。岩手県は2.0%対0.5%。いずれも母数は小さいものの、全体平均との比では大きく上回っています。

北海道は10.4%対7.9%。富山県2.5%対0.9%、岐阜県5.0%対3.5%、熊本県3.6%対2.2%、岡山県2.4%対1.1%、香川県2.2%対1.2%も平均超えです。

③ ただし、訪問率が低い県は標本が小さい

ここは先に断っておきます。県別の標本サイズには大きな開きがあります。

台湾の回答者のうち、東京都を訪れた人は5,427人、大阪府は4,770人。一方で岩手県は197人、青森県は219人、山形県は269人です。さらに少ない県もあります。高知県44人、山口県46人、島根県64人、福井県72人、群馬県72人。

標本が数十人の県については、1ポイント程度の差を読み取るべきではありません。本記事で県名を挙げているのは、標本が197人以上で、かつ全体平均との差が1ポイント以上ある県に限っています。

第2章:なぜそうなるのか。移動手段のデータが説明する

① 交通費の内訳で、台湾が平均を上回るのはレンタカーだけ

購入率は、その費目に支出した人の割合です。移動の回数ではありません。

交通費の内訳別 購入率

単位:% 購入率はその費目に支出した人の割合

  • 台湾
  • 全国籍・地域
新幹線・鉄道・地下鉄新幹線・鉄道・地下鉄新幹線・鉄道・地下鉄 台湾: 61.561.5新幹線・鉄道・地下鉄 全国籍・地域: 75.975.9タクシータクシータクシー 台湾: 14.914.9タクシー 全国籍・地域: 23.323.3バスバスバス 台湾: 14.514.5バス 全国籍・地域: 21.621.6レンタカーレンタカーレンタカー 台湾: 18.418.4レンタカー 全国籍・地域: 9.79.7Japan Rail PassJapan Rail PassJapan Rail Pass 台湾: 6.36.3Japan Rail Pass 全国籍・地域: 5.45.4航空(国内移動)航空(国内移動)航空(国内移動) 台湾: 0.90.9航空(国内移動) 全国籍・地域: 33

新幹線・鉄道・地下鉄は台湾61.5%に対し全体75.9%。14.4ポイント下回ります。タクシーは14.9%対23.3%、バスは14.5%対21.6%、国内移動の航空は0.9%対3.0%。すべて平均以下です。

例外は1つだけです。

この結果は直感に反します。台湾はリピーターの比率が高い市場です。2回目以降の来訪が87.8%で、全国籍・地域の64.0%を大きく上回ります。21の国・地域のなかでは香港の91.0%に次ぐ2番目です。日本の鉄道に慣れているはずなので、鉄道の利用は平均より多いだろうと考えるのが自然です。データはその逆を示しています。

② 団体客の影響を除いても、傾向は残る

当然の反論があります。台湾は団体ツアーの参加率が18.0%で、全体10.1%のおよそ2倍。団体客は交通費を個別に払わないので、鉄道の購入率が低く出ているだけではないか。

確かめました。団体客が交通費をいっさい計上しないと仮定して、団体客を除いた場合の数字に引き直します。

補正前の差補正後の差
新幹線・鉄道等−14.4−9.5
レンタカー+8.7+11.6

鉄道の差は14.4ポイントから9.5ポイントに縮みますが、消えません。団体比率で説明できるのは差の3分の1ほどです。

そしてレンタカーの差は、補正すると逆に開きます。団体客は車を借りないため、個人で来ている台湾人に限れば利用率は22.4%まで上がる計算になります。

この補正は上限側に振った概算です。実際には団体ツアーの参加者も地下鉄などに個別に支出するため、真の値はこの中間にあります。傾向の向きを確かめるための計算であって、正確な推計ではありません。

③ Japan Rail Passは、思ったほど差が出ない

参考までに、Japan Rail Passの購入率は台湾6.3%に対し全体5.4%です。台湾がわずかに上回ります。鉄道の利用が平均以下である一方、全国周遊パスの購入率は平均並み。この2つは矛盾しません。パスを買う層と、日常的に鉄道で移動する層は別だからです。

なお同じ指標を2026年4-6月期の速報で見ると台湾4.1%対全体4.3%と符号が逆になります。四半期の値は季節と標本で振れるため、本記事では年間値に統一しています。

第3章:自治体・DMOの設計を、どこから変えるか

以上を実務に落とすと、見直す場所は4つです。

1

二次交通の前提を、駅からではなく空港から引き直す

地方誘客の資料は、多くが最寄り駅を起点に組まれています。駅から施設までのバス、乗り継ぎ時刻、フリーパス。台湾人に関しては、その入口の前提が平均より弱くなります。

見直すのは、空港のレンタカーカウンターから現地までの動線です。所要時間、途中の道の駅、駐車場の有無と料金、繁体字の案内があるか。鉄道の乗換案内に相当する情報を、車の側で用意できているかを確認してください。

2

繁体字の情報を、地図と駐車場まで届かせる

車で動く旅行者が現地で見るのは、時刻表ではなく地図です。Googleマップ上の施設名、営業時間、駐車場の情報が繁体字で読めるか。台湾では中国本土と違いGoogleが通常どおり使われているため、ここは投資が直接効きます。

観光パンフレットを繁体字にする予算があるなら、その一部を地図情報の整備に回すほうが、車移動の旅行者には届きます。

3

平均を上回っている県は、伸ばす施策に切り替える

沖縄、北海道、東北各県のように、すでに全体平均を上回っている地域は、認知をゼロから作る段階を越えています。課題は「来てもらう」ではなく「滞在を長くする」「単価を上げる」に移っています。

同じ予算でも、広く薄い認知広告より、すでに来ている層に次の目的地を提示する施策のほうが効きます。既訪問者に向けた発信と、周遊ルートの提案です。

4

標本の小さい県は、公的統計だけで判断しない

自県の訪問率が0.3%や0.5%だった場合、それは「来ていない」ではなく「この調査では捉えきれていない」可能性があります。標本が数十人しかない県では、統計の数字は方向を示す程度の意味しか持ちません。

宿泊統計、免税店のデータ、レンタカー会社の貸出実績、施設の言語別問い合わせ件数。手元にある実測値と突き合わせて、はじめて判断材料になります。

なお、繁体字の原稿をどう作るかについては、日本語のパンフレットをそのまま訳しても伝わらない理由を台湾向けLPが伸びない理由は、翻訳ではなく元の原稿にあるで整理しています。地図の表記や施設名の扱いにも同じ考え方が当てはまります。

まとめ

台湾人の訪問先は、全体の平均より地方に散っています。東京・大阪・京都はいずれも平均を15〜20ポイント下回り、沖縄・宮城・北海道・山形・富山・岐阜・岩手・熊本などが平均を上回ります。

そして移動は鉄道ではなく車で起きています。交通費の内訳で台湾が平均を明確に上回るのはレンタカーだけで、団体客の影響を除くとその差はさらに開きます。

この2つを合わせると、地方の自治体・DMOにとっての含意は1つです。台湾人はすでに地方に来ている。ただし、駅ではない場所から入ってきている。

ここから先は、公表統計では埋まらない部分になります。自県に来ている台湾人が何を見て来たのか、現地で何に困っているのか、繁体字の情報がどこで途切れているのか。私たちカケハシは台北に拠点を置き、現地の消費者の動きと繁体字のコンテンツ制作を本業にしています。自県のデータと突き合わせたい段階になりましたら、お声がけください。