目次7章 / 19項目
  1. 第1章:翻訳の正確さと、読んで動きたくなる文章は別物
  2. ① 訪日台湾人の9割は、すでに日本を知っている
  3. ② 日本語サイトは、日本語話者に向けて書かれている
  4. ③ 「正しい訳」と「動く文章」の距離
  5. 第2章:直訳で生じる4種類のズレ
  6. 第3章:台湾人は、どこで旅先を決めているか
  7. ① 媒体の構成が、日本とは違う
  8. ② 検索で確認されることを前提にする
  9. ③ ページは「読ませる」ものではなく「確かめる」ための道具
  10. 第4章:繁体字と簡体字を混同すると、何が起きるか
  11. ① 文字を変換しても、語彙は変換されない
  12. ② 気づかれたときに失われるもの
  13. ③ 機械翻訳を使ってよい範囲
  14. 第5章:では、どう作るべきか
  15. 第6章:この考え方が当てはまらないケース
  16. ① 情報量が少ないページは、翻訳で足りる
  17. ② 台湾以外も同時に狙うなら、別の設計になる
  18. ③ そもそも選ばれる理由が無い場合
  19. おわりに

繁体字のページを作った。翻訳会社にも出した。それでも問い合わせが増えない。

台湾向けの情報発信でこの相談を受けることが、当社では最も多くあります。そして原因を調べると、翻訳の品質が低いことはほとんどありません。翻訳のもとになった日本語原稿が、そもそも台湾人向けに書かれていなかった——というのが実際のところです。

観光庁の調査によれば、訪日台湾人の89.8%は2回目以降の来訪です。にもかかわらず、多くの日本語サイトは「日本の魅力」や「四季の美しさ」から説明を始めています。日本を何度も訪れている人に向けて、日本そのものの説明をしているのです。

本記事では、観光庁とDataReportalの公表データを根拠に、翻訳では届かない理由を分解します。そのうえで、台湾向けのページをどう設計すべきかを、実務の手順として整理します。

第1章:翻訳の正確さと、読んで動きたくなる文章は別物

① 訪日台湾人の9割は、すでに日本を知っている

まず前提を確認します。観光庁「インバウンド消費動向調査」2026年4-6月期(1次速報)の台湾回答者753人のうち、日本への来訪が2回目以降の人は676人、89.8%。全国籍・地域の平均62.0%と比べて、突出して高い数字です。

さらに20回以上訪日している人が98人、13.0%います。8人に1人が、日本に20回以上来ている計算です。

訪日台湾人の来訪回数と旅行手配方法

単位:% 観光庁「インバウンド消費動向調査」2026年4-6月期(1次速報)表1-1の回答数から当社が構成比を算出。台湾の回答数753人、全国籍・地域7,587人

  • 台湾
  • 全国籍・地域
2回目以降の来訪2回目以降の来訪2回目以降の来訪 台湾: 89.8%89.8%2回目以降の来訪 全国籍・地域: 62%62%20回以上の来訪20回以上の来訪20回以上の来訪 台湾: 13%13%20回以上の来訪 全国籍・地域: 6.2%6.2%個別手配(FIT)個別手配(FIT)個別手配(FIT) 台湾: 74.2%74.2%個別手配(FIT) 全国籍・地域: 88%88%団体ツアー参加団体ツアー参加団体ツアー参加 台湾: 20.7%20.7%団体ツアー参加 全国籍・地域: 8.8%8.8%

出典:観光庁「インバウンド消費動向調査」2026年4-6月期(1次速報)。構成比は表1-1の回答数(台湾753人・全国籍7,587人)を分母とした当社試算。

この数字が意味するのは単純です。台湾人読者にとって「日本はいいところです」は、すでに知っている情報だということです。彼らが知りたいのは、日本がいいかどうかではありません。数ある選択肢のなかで、なぜこの施設なのかです。

② 日本語サイトは、日本語話者に向けて書かれている

日本語の公式サイトは、当然ながら日本人読者を想定して書かれています。日本人は日本の地理を知っていて、季節感を共有していて、企業名や地名から連想が働きます。だから説明を省略できます。

その省略された前提を、翻訳は補いません。翻訳が訳すのは、書かれた言葉だけです。書かれていない前提は、訳しようがありません。結果として、台湾の読者には「何が言いたいのか分からない、正しい繁体字」が残ります。

逆もまた起きます。日本語では丁寧に説明されている「日本の四季の移ろい」は、リピーター9割の読者には冗長です。日本語で必要だった説明が、台湾向けでは不要になります。この増減を判断できるのは翻訳ではなく、構成の工程です。

③ 「正しい訳」と「動く文章」の距離

翻訳会社の仕事は、原文に忠実な訳文を作ることです。これは正しい仕事です。ただし忠実であることと、読んだ人が予約ボタンを押すことは、別の問題です。

当社の現場感覚では、日本語原稿をそのまま繁体字にしたページと、台湾向けに書き下ろしたページでは、同じ商品でも伝わる内容が変わります。前者は情報として正しく、後者は判断材料として機能します。この差が、問い合わせ数の差になって現れます。

第2章:直訳で生じる4種類のズレ

具体的に、どこがどうずれるのか。当社が台湾で14年以上、現地向けの制作を行うなかで繰り返し見てきた類型を4つに整理します。

1

固有名詞が、検索できない文字列になる

日本語の施設名・地名をそのまま繁体字に置き換えると、台湾で実際に使われている呼び名と一致しないことがあります。台湾のユーザーは、ページで見た名前をそのまま検索窓に入れます。そこで何も出てこなければ、そのページに書かれた内容は、確かめようのないものになります。

対処:台湾のSNSやブログで実際に使われている表記を調べ、それに合わせます。日本語の正式名称を併記する形にすると、現地表記と公式表記の両方から到達できるようになります。

2

言い回しが、丁寧なだけで中身のない文になる

「心を込めておもてなしいたします」「日本の伝統を大切にしています」といった表現は、日本語では価値を持ちます。しかし直訳すると、台湾の読者には何を約束しているのか分からない文になります。

台湾の宿泊・飲食のページでは、日本より具体的な記述が好まれます。「おもてなし」ではなく「チェックイン24時間対応・中国語スタッフ常駐」。抽象的な価値の宣言より、検証できる条件のほうが強く効きます。

3

単位と表記が、そのまま持ち込まれる

価格の税込・税別の扱い、日付の書き方、電話番号の国番号、住所の並び順。これらは翻訳の対象になりにくく、日本の形式のまま残りがちです。

対処:価格は台湾ドル換算の目安を併記する。日付は年月日の順で誤解が生じない形にする。電話番号には国番号を付ける。予約の直前で迷いを生む要素を、あらかじめ消しておきます。

4

季節感の前提が共有されていない

「肌寒くなってまいりました」のような書き出しは、台湾では通じません。台北の冬は日本の東北とは別物で、読者の体感が違います。桜や紅葉の時期も、台湾から見れば「いつ行けばいいか」という日程の問題であって、情緒の共有ではありません。

対処:季節の描写は、気温と時期の数字に置き換えます。「11月下旬から12月上旬が見頃、京都の平均気温は8度前後」のほうが、旅程を組む読者には実用的です。

第3章:台湾人は、どこで旅先を決めているか

① 媒体の構成が、日本とは違う

台湾向けのページを作るとき、見落とされがちなのが「そのページに、どこから人が来るのか」です。台湾と日本では、主要なSNSの使われ方が大きく違います。

総人口に対する広告リーチ率|台湾と日本の比較

単位:% DataReportal「Digital 2026」台湾版・日本版より。2025年末時点

  • 台湾
  • 日本
FacebookFacebookFacebook 台湾: 74.9%74.9%Facebook 日本: 13.4%13.4%InstagramInstagramInstagram 台湾: 52.6%52.6%Instagram 日本: 51.4%51.4%ThreadsThreadsThreads 台湾: 28.8%28.8%Threads 日本: 10.5%10.5%XXX 台湾: 26%26%X 日本: 57.9%57.9%

出典:DataReportal「Digital 2026」台湾版日本版(いずれも2025年末時点)

Facebookは台湾74.9%に対して日本13.4%と5倍以上の差があります。Threadsも台湾28.8%に対し日本10.5%です。逆にXは日本57.9%・台湾26.0%で、日本のほうが高くなっています。Instagramは台湾52.6%・日本51.4%とほぼ同じで、台湾ではFacebookとInstagramの二つが主要な入口になっています。日本での成功体験がそのまま当てはまらないのは、この構成の違いが原因です。

つまり日本国内向けに「Xで話題になる文章」を作っても、台湾では読まれる場所そのものが違います。ページに載せる写真の枚数、1画面あたりの情報量、リンクの置き方は、流入元の媒体に合わせて変わります。

② 検索で確認されることを前提にする

第1章の図のとおり、台湾人旅行者の74.2%は個別手配(FIT)です。全体平均88.0%より低いものの、団体ツアー参加が20.7%(全体8.8%)と高いのが台湾市場の特徴で、個別手配と旅行会社経由が併存しています。

個別手配の読者は、SNSで見つけたあと必ず検索で裏を取ります。このとき繁体字の情報が薄いと、比較検討の最終段階で候補から外れます。SNSは入口であって、決め手は検索の先にあるページです。

③ ページは「読ませる」ものではなく「確かめる」ための道具

リピーター9割の読者にとって、旅行先のページは読み物ではなく確認の道具です。営業時間、アクセス、価格、予約方法、対応言語。これらを探させないことが、台湾向けページの最優先事項になります。

情緒的な導入文を長く置くと、確認したい項目が下へ押し下げられます。日本語サイトでは冒頭の世界観づくりが機能しますが、台湾向けでは同じ位置に事実を置いたほうが成果が出ます。

第4章:繁体字と簡体字を混同すると、何が起きるか

① 文字を変換しても、語彙は変換されない

台湾で使われるのは繁体字、中国大陸で使われるのは簡体字です。変換ツールを使えば字形は相互に変換できます。しかし変換されるのは字形だけで、語彙と言い回しは変換されません。

同じ意味でも、台湾と大陸では使う語が違います。よく出てくるものを挙げます。

日本語台湾(繁体字)中国大陸(簡体字)
情報資訊信息
ソフトウェア軟體软件
ネットワーク網路网络
動画影片视频
自転車腳踏車自行车
タクシー計程車出租车
弁当便當盒饭

字形だけ繁体字にしても、語彙が大陸のものであれば、台湾の読者は読んだ瞬間に気づきます。「软件」を繁体字に変換しても「軟件」にしかならず、台湾で使う「軟體」にはなりません。変換ツールが扱うのは字形であって、語の選択ではないためです。

② 気づかれたときに失われるもの

これは誤字の問題ではありません。「この会社は台湾を見ていない」という判断が生まれる点が問題です。

台湾の読者にとって、繁体字か簡体字かは政治的・文化的な線引きに触れる話題でもあります。当社が現地で制作を行う際、ここは最も慎重に扱う部分です。安全に進めるには、大陸向けの原稿を流用しないという原則を守るのが確実です。

③ 機械翻訳を使ってよい範囲

すべてを人手で書くべき、という話ではありません。当社では、繁体字は台湾人チームが担当し、英語・簡体字・韓国語についてはAI翻訳も活用しています。読者の判断に直結する言語には人を置き、補助的な言語は機械で速く広く用意する——この使い分けが現実的です。

判断の基準は単純で、その言語の読者が主要ターゲットかどうかです。台湾市場を狙うなら繁体字は人手。ついでに英語も置いておきたい、という位置づけであれば、AI翻訳でも十分に役割を果たします。

台湾向けの導線設計と、どこまでを人手で作るかについては、当社グループが提供するインバウンド特化のLP制作サービスで、含まれる内容と料金を公開しています。制作期間は内容によりますが、通常1〜2ヶ月を目安としています。

第5章:では、どう作るべきか

翻訳を発注する前にやるべきことがあります。当社が実際に踏んでいる手順を5段階で示します。

1

日本語原稿を、台湾向けに書き直す

翻訳の前に、日本語の段階で内容を組み替えます。削るもの:日本の説明、季節の情緒、業界内でしか通じない言い回し。足すもの:台湾からのアクセス手段、他施設との違い、価格の内訳、予約から当日までの流れ。

この工程を飛ばすと、あとの翻訳がどれだけ正確でも成果は変わりません。最も効果が大きく、最も省略されやすい工程です。

2

情報の順番を、確認の順番に合わせる

台湾の読者がページで確認する順番は、おおむね「何ができるか → いくらか → どこにあるか → どう予約するか」です。日本語サイトの構成(理念 → 沿革 → 施設紹介 → 料金)とは違います。

実務:1画面目に、施設の性格・価格帯・最寄り駅からの所要時間を置く。詳しい説明はその下に置く。順番を入れ替えるだけで、読者は探さずに判断できるようになります。

画面の位置日本語サイトによくある構成台湾向けで機能する構成
1画面目キャッチコピーと風景写真何ができる施設か・価格帯・所要時間
2画面目理念・ごあいさつ他とどう違うか(比較できる形で)
3画面目沿革・受賞歴料金の内訳と含まれるもの
4画面目施設・設備の紹介アクセス(台湾からの経路を含む)
5画面目アクセス・お問い合わせ予約方法と当日の流れ

日本語サイトは信頼を積み上げてから本題に入る構成、台湾向けは本題から入って理由を後から示す構成になります。どちらが正しいという話ではなく、読者が来る文脈が違います。

3

繁体字は、台湾で書く

字形の変換ではなく、台湾で使われている語彙で書き起こします。専門用語、施設の種類、食べ物の名前は、台湾での一般的な呼び方に合わせます。

確認方法:できあがった原稿の固有名詞を台湾のSNSで検索し、同じ表記が使われているかを見ます。検索して出てこない表記は、読者にとって存在しない言葉です。

4

流入元の媒体に合わせて、見せ方を整える

第3章で見たとおり、台湾ではFacebookとInstagramが主要な入口です。SNSから来た読者は、縦に長い画面をスクロールしながら判断します。

実務:写真は横長より縦長を優先する。1画面に情報を詰め込まず、スクロールで理解が進む構成にする。SNSに貼ったときの表示(OGP画像とタイトル)も設計対象に含めます。

5

公開後に測り、直し続ける

公開は完成ではありません。どの画面で離脱しているか、どのボタンが押されているかを見て、文言と順番を直します。

台湾向けのページでは、日本語ページ以上に更新の頻度が成果へ直結します。季節商品、キャンペーン、交通情報。読者が確認しに来る道具である以上、情報が古いこと自体が離脱の理由になります。

第6章:この考え方が当てはまらないケース

翻訳では足りないと述べてきましたが、限界も書いておきます。

① 情報量が少ないページは、翻訳で足りる

営業時間と場所と電話番号しかないページであれば、正確な翻訳で十分です。書き直す内容がそもそも無いためです。書き直しが効くのは、判断を求めるページ——予約や申し込みを促すページに限られます。

② 台湾以外も同時に狙うなら、別の設計になる

繁体字に最適化するほど、他言語との共通化は難しくなります。英語・韓国語・簡体字も同時に運用したい場合は、共通の骨格を作ったうえで台湾版だけ差し替えるという設計が必要です。全言語を個別最適すると、更新が追いつかなくなります。

③ そもそも選ばれる理由が無い場合

ページの作り方以前の問題として、台湾市場で選ばれる理由が施設側に無いことがあります。この場合に必要なのは翻訳でも書き直しでもなく、商品そのものの検討です。ページは、存在しない価値を作り出しません。

当社が市場調査から入る案件では、調査の結果として「いまは台湾に出るべきではない」という結論をお伝えすることもあります。作る前に確かめる工程は、省略しないほうが結果的に安く済みます。

おわりに

台湾向けのページで問われているのは、日本語をどれだけ正確に訳せるかではありません。何度も日本に来ている人に対して、次に何を伝えるかです。

その答えは日本語の原稿の中には書かれていません。書かれていないものは、翻訳では出てきません。だから、書き直すところから始める必要があります。

本記事の統計は2026年9月時点の公表値に基づきます。年数表記は当社台湾法人の設立日(2011年2月21日)を起点に自動計算しています。