前回の記事で、自治体の台湾向け誘客業務の相場を集計しました。そのなかで「現地レップ・戦略パートナー」型が7件あり、委託料の上限額は220万円から1,800万円と、8倍の開きがありました。
では、委託料の差はどこから来るのか。仕様書を並べて業務内容を比べたところ、訪問社数の下限はどの案件も月4〜6社に収まり、金額の差は訪問以外の項目に表れていました。
600万円
委託料上限の中央値(公告7件)
4〜6社/月
仕様書が課す訪問社数の下限(5件)
4.4倍
訪問社数を書いた5件の委託料の幅
レップ型の委託料は220万円から1,800万円
まず金額です。
単位:万円(税込) 年度は公告の年度。前回集計した48件から、レップ型の7件を抜き出した
中央値は600万円。多くは単年度の契約で、現地で営業と情報収集を続けてもらう対価として、この額が置かれています(海の京都DMOのみ9か月)。
訪問社数の下限は、どの案件も月4〜6社
仕様書に訪問社数を書いている5件を並べると、こうなります。
上段の単位は万円(税込)、下段は社。桁が違うため2枚に分けています。海の京都DMO以外は「〜以上」の下限指定。石川県は「35社以上」をレップオフィス設置期間8か月で割った値
上段の単位は万円(税込)、下段は社。桁が違うため2枚に分けています。海の京都DMO以外は「〜以上」の下限指定。石川県は「35社以上」をレップオフィス設置期間8か月で割った値
上段は4.4倍の開きがあります。下段はほぼ平らです。原文はこうです。
ここで並べているのは、訪問社数という一項目だけです。220万円の案件も970万円の案件も、この項目に置かれた数字は月4〜6社でした。業務全体が同じという意味ではありません。招請や出展を入れるか、商談会やセミナーを自分で主催するか、戦略の策定まで含めるかは、5件それぞれで違います。訪問社数は、金額の差が出にくい項目だった、ということです。
ひとつ補足があります。範囲を区切っているのは海の京都DMOの「4〜6社程度/月」だけで、残る4件は「〜以上」という下限の指定です。上限を定めた条項ではないので、実際にはこれを超えて訪問することもあります。それでも、仕様書が置く訪問社数の最低ラインが委託料に比例していないことは変わりません。
理由は、台湾で日本の旅行商品を扱う主要な旅行会社の数が限られていることにあります。石川県の仕様書が「台北に加え、高雄の旅行会社等も含め35社以上をフォローし」と書いているのが、だいたいの母数です。回る先の母数が決まっているため、訪問社数だけを積み増しても、その先は同じ相手に通う話になります。
値段が変わる理由は、訪問数以外の施策にありました
では何が増えるのか。業務内容を金額順に並べると、はっきり3段階に分かれました。
機会に乗る(220万円前後)
すでにある機会にタイアップで参加します。海の京都DMOの仕様書は「旅行博など、効果的なプロモーション機会の設定とタイアップ出展」「現地旅行系メディアとタイアップした観光プロモーション」「自社サイトなどを利用した月2回程度のSNS情報発信」。自前のブースも自前のイベントも持ちません。
自分で呼ぶ・自分で出る(350〜600万円)
招請と出展が入ります。石川県は「旅行会社招請 対象:加賀・能登への送客が見込める旅行会社等(高雄を含み、計10社程度)、日程:3泊4日程度」。宮城県は「現地旅行博等のイベントには委託期間中1回以上出展することとし、出展料及び出展に係る諸経費(ブース装飾、ノベルティ等必要物品の購入等に係る費用、通訳、郵送費)は委託費に含む」。
自分で開く・戦略から立てる(836〜970万円)
商談会とセミナーの主催、そして戦略の策定が入ります。愛媛県は台北でのセミナー・商談会について「台湾旅行会社等 30社程度」「企画、会場・通訳の手配、参加者募集、当日運営、メディアへの広報及び経費支出など、セミナー・商談会開催に係る一連の業務」。ツーリズムおおいたは「商談会を開催する場合は、国内事業者10社以上、現地事業者10社以上が参加すること」「セミナーを開催する場合は、現地事業者20名以上が参加すること」に加え、冒頭に「戦略構築業務」を置いています。
もうひとつの要因は、実費をどちらが持つか
金額差は業務内容だけで決まっているわけではありません。同じ業務でも、実費を委託費に入れるかどうかで額が動きます。
わかりやすいのが旅行博の出展費です。石川県は「旅行博出展に係る費用(出展費、ブース装飾等)は本事業の提案には含めない」として県が別途持ちます。宮城県は逆に「出展料及び出展に係る諸経費(ブース装飾、ノベルティ等必要物品の購入等に係る費用、通訳、郵送費)は委託費に含む」としています。宮城県の600万円には出展費が入っていて、石川県の350万円には入っていません。
招請の旅費も同じです。石川県は「航空券、旅行社保険、Wi-Fiルーターなど被招請者及び同行通訳の旅費については、別途県が負担するものとし、本業務の委託費には含めない」。海の京都DMOはFAMツアーについて「費用は別途DMO負担」。
委託料だけを横に並べても、同じものを比べたことにはなりません。比較するときは、この記事の後半にある「委託費に含まないもの」と合わせて読む必要があります。
仕様書に書かれている業務は、6つに分けられる
5件の仕様書に出てくる業務を整理すると、次の6つに収まりました。どの案件も、この組み合わせです。
付随して、アテンド通訳(宮城県は年5回程度、石川県は2回×2日間程度)、翻訳、パンフレットやノベルティの保管が入ります。愛媛県と石川県は「営業拠点でパンフレットやノベルティ、その他PRに必要なものを保管すること」と、ほぼ同じ文で書いています。
成果指標を書いているのは、5件のうち1件
ここは発注する側にとって重要なところです。訪問社数のようなアウトプットは多くの仕様書が書いていますが、アウトカムまで書いているのは宮城県でした。
アウトプットは「やった量」、アウトカムは「その結果どうなったか」です。訪問40社は受託者の努力で届きますが、商品が10本できるかどうかは相手の旅行会社が動かないと決まりません。
| 区分 | 宮城県の設定 |
|---|---|
| アウトプット | 年間訪問件数 延べ40社以上(月4社以上) |
| アウトプット | 現地旅行会社等に対するセミナーの開催 1回以上 |
| アウトカム | 旅行会社による新規商品造成数 10商品以上 |
石川県は数値を置かず、提案側に出させる形にしています。「造成目標:企画提案書において、レップの働きかけによる能登・加賀エリアを含む商品の造成本数等について提案すること」。そのうえで「※事業開始前に造成されていたツアーは基本的に含めない」と釘を刺しています。
残る3件は、商品造成数の目標を仕様書に置いていません。置かない判断もありますが、翌年度に「成果は何だったのか」と問われたときの答えは、この一行があるかどうかで変わります。
レップは掛け持ちが前提。それを書いた公告がある
ツーリズムおおいたの仕様書に、こういう条項があります。
セールスコールを他自治体等の業務によるセールスと合わせて実施している場合には、その旨及び大分県に特化したセールス実施内容・結果を5(4)アの月次報告書に明記すること。この場合において、大分県のセールス活動として不十分と認められる場合には、アに掲げる件数に含まないものとする。
台湾の現地レップは、複数の自治体を同時に担当しています。同じ旅行会社を同じ日に訪問して、複数県の資料をまとめて置いてくる、ということが現実に起きます。この公告は掛け持ちを禁じてはいません。合わせて実施した場合は月次報告書に明記すること、大分県のセールスとして不十分と認められる場合は件数に含めないこと、という書き方をしています。
発注する側は、ここを書いておくかどうかで報告の質が変わります。受ける側にとっては、掛け持ちを隠さず運用できるかどうかの分かれ目になります。
委託費に入らないものが、仕様書に書いてある
積算のときに見落としやすいところです。読んだ5件から拾いました。
出展費のように、同じ費目でも案件によって含める・含めないが逆になります。前年度の仕様書をそのまま流用するときは、ここだけ読み直す価値があります。
当社の場合
実行する側として、できることとできないことを並べておきます。
レップ業務の要素当社
台北で日本語ニュースサイト「台北経済新聞」を自社運営しています。
受託実績なし。体制と手順は用意できます。
自治体の案件は、元請けの広告代理店を通じて複数手がけてきました。レップ業務に相当する一式(現地商談会のフォロー、旅行博の出展とPR、繁体字SNSの運用、KOLの招聘、現地イベントのPR)も担当しています。
まとめ
- レップ型の委託料上限は220万円から1,800万円。7件の中央値は600万円
- 訪問社数の下限は、どの案件も月4〜6社に収まる(海の京都DMO以外は「〜以上」の指定なので、実際はこれを超えることもある)
- 金額の差が出るのは、商談会・セミナーを自分で主催するか、戦略の策定まで含めるか
- もうひとつの要因は実費の持ち方。旅行博の出展費は、石川県が県負担、宮城県が委託費に込み
- 業務は6つに分けられる。情報収集/セールスコール/招請・商談会/出展/繁体字発信/造成フォローと定例報告
- 成果指標(新規商品造成数)を書いていたのは5件のうち1件
- 招請の旅費や旅行博の出展費は、案件によって委託費に含める場合とそうでない場合がある
カケハシは台北にオフィスを置き、ここに挙げた業務をお引き受けしています。対応できる範囲と、受託しての実績がまだない項目は台湾レップ(現地窓口)に分けて書きました。予算の組み方や仕様書の条件についてなどは、お問い合わせからご連絡ください。
よくある質問
- 観光レップとは何をする事業者ですか。
- 自治体やDMOに代わって、現地に拠点を置いて営業と情報収集を行う事業者です。公告の仕様書を分解すると、業務は「現地市場の情報収集と報告」「旅行会社へのセールスコール」「招請・商談会・セミナー」「旅行博やイベントへの出展」「繁体字での情報発信」「商品造成のフォローと定例報告」の6つに整理できます。発注者によって、このうちどこまでを含めるかが変わります。
- 台湾の観光レップの費用はいくらぐらいですか。
- 現地レップ・戦略パートナー型の公告7件では、委託料の上限額は220万円から1,800万円でした(いずれも税込)。中央値は600万円です。海の京都DMOが9か月で220万円、宮城県が600万円、ツーリズムおおいたが970万円、大分県が1,800万円でした。
- 委託料が高いと、訪問してくれる旅行会社の数も増えるのですか。
- 今回集めた公告を見るかぎり、委託料と訪問社数は比例していません。訪問社数を明記している5件では、220万円の案件が「4〜6社程度/月」、970万円の案件が「毎月4社以上」と、委託料が4.4倍違っても下限は月4〜6社にそろっていました。ただし海の京都DMO以外は「〜以上」という下限の指定なので、予算を積んで訪問数を増やすこと自体はできます。ただし、訪問数は多いほどよいというものでもありません。台湾で日本の旅行商品を扱う旅行会社は数が限られていて、規模も得意分野も異なります。石川県の仕様書も「商品造成・送客が見込める旅行会社には、複数回訪問すること」としており、見込みのある相手に通うことを求めています。差がつくのはむしろ配分で、商談会やセミナーを自分で主催するか、戦略の策定まで含めるか、旅行博の出展料や招請の旅費を委託費に含めるかによって、同じ予算でもできることが変わります。訪問数だけを増やすのではなく、全体のバランスで決めるのが現実的です。
- レップは複数の自治体を掛け持ちしているのですか。
- 掛け持ちを前提にした条項を置いている公告があります。ツーリズムおおいたの仕様書は「セールスコールを他自治体等の業務によるセールスと合わせて実施している場合には、その旨及び大分県に特化したセールス実施内容・結果を月次報告書に明記すること」とし、「大分県のセールス活動として不十分と認められる場合には、件数に含まないものとする」と定めています。





