自治体やDMOが台湾向けの観光プロモーションを外部に委託するとき、いくらの予算が組まれているのか。公募型プロポーザルの公告には委託料の上限額が書かれていますが、年度をまたぐと削除されてしまうため、横に並べて見る機会がほとんどありません。
公告48件を集めたところ、市場を台湾ひとつに絞った38件の委託料上限は150万円から3,200万円、中央値は477万円でした。
477万円
委託料上限額の中央値(38件)
150万円
最も小さい案件(米子市・ツーリズムKURE)
3,200万円
最も大きい案件(福島県)
半数が500万円未満。1,000万円超えは3割
まず全体の散らばりです。
単位:件 金額はいずれも税込の委託料上限額
300万円以上500万円未満がいちばん多く13件、500万円未満までで19件と、ちょうど半数になります。一方で1,000万円を超えるものも10件あり、幅が20倍以上あります。
平均は769万円ですが、上に大きな案件が引っ張るので、感覚に近いのは中央値の477万円のほうです。
業務の型で、相場はきれいに分かれる
金額の幅は、規模の違いというより何を頼んでいるかの違いです。38件を業務の型で分けると、相場がはっきり段になります。
単位:万円(税込) 括弧内は件数。台湾単独の38件を型で分けた
- SNS・ウェブでの情報発信(中央値230万円) 繁体字アカウントの運用、現地メディアへの記事掲載。米子市150万円、熊本県230万円、埼玉県310万円
- 旅行博・イベント出展(328万円) 台湾国際旅行博、高雄のKTF、ランタンフェスティバル。盛岡市230万円、東北観光推進機構320万円、名古屋観光コンベンションビューロー370万円
- 招請・商談会・ファムツアー(425万円) 旅行会社やKOLを台湾から呼ぶ型。富山県350万円、松山市400万円、石川県450万円、甲府市454万円
- 現地レップ・戦略パートナー(600万円) 年間を通して現地で動いてもらう型。海の京都DMO220万円から大分県1,800万円まで幅が広い
- 教育旅行の誘致(727万円) 三重県452万円、宮城県1,002万円
- 総合・複数施策(1,000万円) 出展も招請も発信もまとめて1本で出す型。13件と最も多く、257万円から3,200万円まで
予算を組む側から見ると、この段が積算の出発点になります。「台湾プロモーションに1,000万円」と考える前に、どの型を何本やるのかで額が決まります。
都道府県とDMOでは、1件あたりが倍近く違う
単位:万円(税込) 括弧内は件数
都道府県は中央値600万円、市区町村は454万円、DMO・観光協会などは345万円でした。DMOは1件あたりが小さい代わりに、応募の間口が広い傾向があります。都道府県や市の案件は入札参加資格者名簿への登録を求めることが多いのに対し、DMOの公告にはその要件がないものが目立ちます。
台湾に拠点を持つ事業者にとっては、DMOの小さい案件が現実的な入口になります。金額は小さくても、次に自治体本体の公告へ応募するときに「地方公共団体等が発注した類似業務の受注実績」として効きます。
複数市場をまとめた案件は、1件あたりが大きい
台湾だけでなく香港や欧米豪をまとめて1本で出す公告も10件ありました。こちらは中央値1,274万円で、台湾単独の477万円の2.7倍です。栃木県の台湾・タイ・米国向けデジタルマーケティングが2,106万円、福島県の台湾・米国・豪州インフルエンサー招聘が3,122万円、宮崎県の韓国・台湾・香港・ASEAN向けOTA連携が3,200万円でした。
金額は大きく見えますが、市場の数で割ると台湾単独の案件と変わりません。複数市場の案件は、台湾の予算が他市場と同じ器に入っているだけです。
応募資格に「台湾に拠点があること」と書く発注者がいる
金額より先に読むべきなのは、応募資格の欄です。台湾向けの案件には、日本国内の事業者だけでは満たせない条件を書いているものがあります。
いずれも、現地に人と場所があることを前提に書かれた条件です。ただし満たし方には幅があります。ツーリズムおおいたは「(連携企業も可)」、仕様書でも「自社での体制確保ができない場合は連携企業でも可とする」と明記しており、日本の事業者が現地の会社と組んで応募できます。宮城県はその逆で、代表事業者だけでなく再委託先にも台湾の拠点を求めます。
宮城県の募集要領には、こんな一文もあります。「1つの企業が複数の企画提案者の再委託先事業者となることはできないが、海外法人については、この限りではない。」国内の企業は複数の提案に名を連ねられないのに、海外法人だけは例外にしてあります。台湾側で受けられる事業者が限られていることを、発注者の側も前提にしている書き方です。
支払いの条件は、これと逆を向くことがあります。埼玉県の「令和7年度台湾市場向けプロモーション事業業務委託」の実施要項は「支払先銀行口座は日本国内に本店・在日支店を置く銀行口座とする。」としています。在日支店なら認められますが、現地法人の口座だけでは受けられません。一方、愛媛県の仕様書は「委託料は日本円で支払うこととし、支払先を海外の銀行に指定する場合は、海外送金手数料を受託者の負担とする」と書いており、海外の受託者を前提にしています。三重県にいたっては、プレゼンテーションについて「海外からの参加者は、希望によりオンライン会議システム(Zoom)を利用してプレゼンテーションを実施します」と明記しています。
消費税の書き方にも差が出ます。ツーリズムおおいたの仕様書は、予算上限額9,700,000円に二つの注記を付けています。「※国内事業者:消費税及び地方消費税含む」「※海外事業者:所在する国又は地域で支払いが必要な税を含む」。国内の事業者なら日本の消費税を含んだ額、海外の事業者なら現地で課される税を含んだ額、という書き分けです。積算のときに見落としやすい箇所です。
同じ台湾向けの案件でも、発注者が想定している受託者の姿がまったく違います。金額だけを見て応募先を決めると、ここで外します。
何にいくら積まれているか
公告のなかには、費目ごとの金額を分けて書いているものがあります。予算を組む側にとっては、ここが一番使える部分です。
単位:万円(税込) いずれも各発注者の公告・仕様書に記載された金額
さっぽろ連携中枢都市圏観光協議会の公告は、上限13,050,000円の内訳を「着地型商品の造成・販売促進に係る費用:8,300,000円」「台北国際旅行博(ITF)2025出展に係る費用:4,750,000円」と分けています。台湾最大の旅行博に自治体が1ブース規模で出展する費用として、475万円という数字が公告に残っていることになります。同協議会が令和5年度に出した出展補助業務の上限は460万円で、2年間でほぼ横ばいでした。
石川県の仕様書は、上限300万円の内訳を「記事掲載(費用の目安:2,500千円)」「アンケート(費用の目安:500千円)」としています。現地WEBメディアでの記事掲載に250万円という目安です。
さらに細かい単価も書かれています。さっぽろの仕様書は、旅行博の運営について「日本語と中国語が流暢に話せる通訳スタッフを常時5名以上配置すること」、招請者の宿泊について「1泊1人あたり13,000円を目安とすること」と指定しています。積算根拠を用意する段階では、他の自治体の仕様書に書かれたこうした単価が、そのまま参照できます。
上限額ぎりぎりで契約され、12者が競る案件もある
多くの公告は「この上限額とは別に、契約手続きにおいて予定価格を設定する」と断っています。上限がそのまま契約額になるわけではない、という趣旨です。
ただ、結果を見ると上限に貼り付きます。さっぽろ連携中枢都市圏観光協議会の令和7年度台湾市場誘客促進業務は、上限13,050,000円に対して契約金額が13,046,000円でした。差は4,000円です。
競争はそれなりに起きています。北九州市国際観光推進協議会の令和8年度台湾市場における誘客プロモーション業務は、提案者数12者で、株式会社JTB北九州支店が受託候補者になりました。800万円の案件に12者です。
ただし、これは公募型だからです。鏡石町のように「資格審査後の指名業者によるプロポーザル方式により選定する」と書かれた案件では、入札参加資格者名簿に載っている事業者しか声がかかりません。同じ台湾向けの仕事でも、誰が競争に参加できるかは入口の方式で決まります。
公告は、年度が終わると消える
今回いちばん手間がかかったのは、集計ではなく収集でした。この1年以内に公告された37件のうち、15件はすでに発注者のページが消えていました。締切から数か月しか経っていないものも含まれます。それ以前のもの、たとえば熊本県の令和7年度台湾プロモーション業務、愛媛県の2025年度分、静岡市の令和7年度分、長野県の令和6年度分も、検索結果には残っているのにページが404です。
前年度の仕様書を参考にしたい担当者にとっては、これが地味に効きます。庁内に前任者の資料が残っていなければ、よその自治体がどう書いていたかを確かめる手段がありません。異動の直後だと、なおさらです。
この記事に数字を並べているのは、そのためです。
予算が決まるまでの1年
台湾向けの案件がいつ公告されるかは、自治体の予算サイクルに従います。今回集めた公告の多くは4月から6月に出ていました。
| 時期 | 自治体の動き |
|---|---|
| 6〜8月 | 各課が翌年度の予算を要求する。積算根拠を揃えるのはこの時期 |
| 9〜11月 | 財政部門の査定 |
| 2〜3月 | 議会で予算が議決される |
| 4〜7月 | 公告、プロポーザル、契約 |
| 11〜12月 | 補正予算による案件が出ることがある |
公告を見てから動くのでは、間に合わない種類の仕事があります。とくに指名型のプロポーザルは、入札参加資格者名簿に登録がないと公告自体が届きません。鏡石町の令和8年度の案件は「資格審査後の指名業者によるプロポーザル方式により選定する」と書かれており、名簿の受付は2年に一度、2月の1か月間だけです。
まとめ
- 台湾単独38件の委託料上限は150万円から3,200万円。中央値は477万円で、半数が500万円未満
- 相場は業務の型で分かれる。SNS・情報発信230万円、旅行博出展328万円、招請・商談会425万円、現地レップ600万円、総合型1,000万円(いずれも中央値)
- 発注者の種別では、都道府県600万円、市区町村454万円、DMO・観光協会345万円
- 応募資格に「台湾域内に活動拠点を有していること」と書く発注者がいる一方、支払先口座を日本国内に限る発注者もいる
- 旅行博への出展475万円、現地WEBメディアへの記事掲載250万円など、費目ごとの金額が公告に残っている
- 契約額は上限に近づく。上限13,050,000円に対して契約13,046,000円という例がある
- 公告は消える。この1年の37件のうち15件が、すでに発注者のページから削除されていた
カケハシは台北にオフィスを置き、自治体・DMOの台湾向け業務を受託しています。予算要求の積算で使える現地の単価や、仕様書に書くべき条件について、公開していない範囲の情報も含めてお渡しできます。お問い合わせからご連絡ください。
よくある質問
- 自治体が台湾向けの観光プロモーションを委託するとき、予算はいくらぐらいですか。
- 公募型プロポーザル48件を集計したところ、市場を台湾ひとつに絞った38件の委託料上限額は150万円から3,200万円で、中央値は477万円でした(いずれも税込)。業務の型で大きく変わり、SNS・ウェブでの情報発信は中央値230万円、旅行博への出展は328万円、招請・商談会は425万円、現地レップ・戦略パートナーは600万円、複数施策をまとめた総合型は1,000万円です。
- 台湾に拠点がない事業者でも応募できますか。
- 案件によります。宮城県の台湾サポートデスク業務は応募資格に「台湾域内に活動拠点を有していること」と明記しており、ツーリズムおおいたの戦略パートナー業務も「対象市場国・地域に営業拠点を有し」ていることを求めています(ただし「連携企業も可」とあり、現地のパートナーと組んだ共同企業体でも応募できます)。一方で、埼玉県のように委託料の支払先銀行口座を日本国内に限る案件もあります。公告ごとに前提が違うので、応募資格の欄を先に読む必要があります。
- 委託料の上限額まで使えると考えてよいのですか。
- 上限額と予定価格は別です。多くの公告が「上限額とは別に、契約手続きにおいて予定価格を設定する」と書いています。ただし実際の契約額は上限に近づく傾向があり、さっぽろ連携中枢都市圏観光協議会の令和7年度台湾市場誘客促進業務では、上限13,050,000円に対して契約金額が13,046,000円でした。
- 応募する事業者は何社くらい集まりますか。
- 公募型か指名型かで大きく変わります。公募型である北九州市国際観光推進協議会の令和8年度台湾市場における誘客プロモーション業務には12者が提案し、株式会社JTB北九州支店が受託候補者になりました。一方、鏡石町のように「資格審査後の指名業者によるプロポーザル方式」を採る案件では、入札参加資格者名簿に登録のある事業者しか土俵に上がれません。





