観光施設でインバウンドを担当していると、台湾からの来館者をどう見積もるかで迷います。数が多い市場なのは間違いない。ただ、自分の施設の場合はどうなのか?
観光庁の調査を再分析すると、施設の種類によって答えがはっきり分かれそうです。
台湾人の美術館・博物館・動植物園・水族館の利用率は30.0%。テーマパークは13.4%。同じ「観光施設」でも2.2倍の差があります。そして、もうひとつ。来館率では健闘している一方、1人あたりの支出は全体の0.72倍にとどまります。台湾客の課題はいまや「呼ぶこと」ではなく「使ってもらうこと」にシフトしています。
本記事の数字はすべて観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年年間の集計表から取りました。目的別の区分は【観光・レジャー目的】に統一しています。台湾の標本は15,242人、全国籍・地域は87,463人です。
第1章:台湾人は「館」に来ている
① 娯楽のなかで、館系が台湾の最高値
購入率は、その費目に対して支出した人の割合%です。入場した回数ではありません。
単位:% 購入率はその費目に支出した人の割合
- 台湾
- 全国籍・地域
美術館・博物館・動植物園・水族館は30.0%。娯楽等サービス費の12項目のなかで、訪日台湾人観光客の購入率が最も高い費目です。2番目のテーマパーク13.4%を大きく引き離しています。
ここで費目の定義を押さえておきます。この項目に含まれるのは、美術館・博物館・動物園・植物園・水族館に加えて、公民館・図書館・城・プラネタリウムの入場料です。城が入っている点は、自治体や史跡を運営する施設にとって見落とせません。
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年年間 報告書 78ページ、費目の定義 d6
② アジアの主要市場で見ると、台湾は上位
30.0%という数字は、全国籍・地域の30.8%とほぼ同じです。これだけ見ると「平均並み」に見えます。しかし比較する相手を揃えると、評価が変わります。
単位:% 全国籍・地域の平均は30.8%
③ 平均値を見るときの注意
この構造は、四半期の速報を見るときにも効いてきます。2026年4-6月期の速報では、館系の全国籍・地域の購入率が35.8%まで上がります。台湾は29.1%です。
動向に変化があったようにも見えますが、台湾人の行動が変わったわけではありません。春から初夏は欧米からの旅行者の比率が上がるため、全体平均が引き上げられます。四半期の平均値との比較で立ち位置を判断すると、読み違えます。本記事が年間値で統一しているのはこのためです。
第2章:来ていないのはテーマパーク
① 娯楽のなかで差が最大
テーマパークは台湾13.4%に対し、全国籍・地域22.2%。8.8ポイント下回り、娯楽等サービス費の12項目で最大の差です。全体のおよそ6割にとどまります。
なお定義上、テーマパークには遊園地と公園の入場料が含まれます。
② 背景にあるのは、リピーター構成と移動手段
訪日台湾人は2回目以降の来訪が87.8%。21の国・地域で香港に次ぐ2番目の高さです。そして交通費の内訳で台湾が平均を上回るのはレンタカーだけで、18.4%対9.7%と約1.9倍になります。
何度も日本に来ているため、地方へ足をむける層。この行動と、都市近郊の大型テーマパークは噛み合いません。初訪日で一度行った場所、という位置づけになっていると考えるのが自然です。
台湾人がどの県に来ているかは、台湾人はどの県に来ているのか|47都道府県の訪問率で見る自治体の誘客設計で詳しく扱っています。
③ ただし、この説明には反論データもあります。
都合の悪いデータも書いておきます。観光庁の報告書には「今回したこと」と「次回したいこと」を尋ねた結果があります。
| 項目 | 今回した | 次回したい |
|---|---|---|
| 美術館・博物館等 | 36.0% | 24.7% |
| テーマパーク | 23.3% | 26.9% |
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年年間 報告書 24ページ 図表6-1。全国籍・地域の数値で、台湾の内訳ではありません。
館系は行った人より次に行きたい人が少なく、テーマパークは逆に増えます。このデータだけを見ると「一度行けば十分」と言われやすいのは、むしろ館系のほうだということです。
この数字は全国籍・地域のものなので、台湾人に当てはまるとは言い切れません。ただし「台湾人はテーマパークを卒業した」という説明は、これ一本では説明しきれないということは、正直に書いておきます。ただ確かなのは購入率の差であって、その理由までは推測です。
第3章:本当の差は、単価に出る
① 来館率は互角。支出は0.72倍
単位:円 その費目に支出した人の平均額
- 台湾
- 全国籍・地域
館系の購入者単価は台湾3,424円、全国籍・地域4,752円。0.72倍です。娯楽等サービス費の全体でも11,251円対15,121円で、ほぼ同じ比率になります。
② 台湾が単価で上回る費目もある
すべての費目で下回っているわけではありません。舞台・音楽鑑賞は台湾22,299円に対し全国籍・地域20,996円で、台湾が上回ります。購入率は1.8%と低いものの、払う人はしっかり払っています。
購入率で台湾が全国籍・地域を上回る費目も3つあります。スキー場リフト2.9%対2.1%、展示会・コンベンション参加費2.7%対2.5%、レンタル料1.5%対1.1%です。
「台湾人は体験にお金を使わない」という一般化は、データに合いません。高額なチケットを買う場合もあるということです。
第4章:施設側で、どこから変えるか
入場料だけで終わらせない設計にする
館系の単価3,424円は、入場料をほぼそのまま反映した金額です。全国籍・地域の4,752円との差は、館内で入場料以外に使われているかどうかで説明がつきます。
音声ガイド、企画展との共通券、体験プログラム、館内の飲食と物販。入場後に選べる選択肢が繁体字で示されているかを確認してください。入口で「入場券のみ」を選ばせた時点で、単価は決まります。
近隣施設とのセット券で、1回の来訪から複数施設へ
台湾客は2回目以降の来訪が87.8%で、地方に向かっている傾向があります。1つの施設に長く滞在するより、近隣を数か所まわる動き方と相性があります。
単館で単価を上げるのが難しい場合、近隣施設との共通券が現実的です。1館あたりの単価は下がっても、エリア全体の消費額は上がります。地域の観光協会やDMOと組む理由がここにあります。
繁体字の情報を、予約と購入の手前まで届かせる
館の名前と開館時間だけを繁体字にしても、単価は動きません。企画展の内容、所要時間、体験プログラムの予約方法、館内で買えるもの。ここまで繁体字で読めて、はじめて来館前に「何にいくら使うか」を決められます。
日本語の案内をそのまま訳すだけでは足りない理由は、こちらの次世代LP制作の説明ページで整理しています。
駐車場を、案内の一部として扱う
台湾客のレンタカー利用率は18.4%で、全国籍・地域の9.7%の約1.9倍です。駅からの導線だけを整えても、この層には届きません。
駐車場の場所、台数、料金、繁体字の案内があるか。Googleマップ上の情報が正しいか。台湾では中国本土と違いGoogleが通常どおり使われているため、地図情報の整備が直接効きます。
第5章:この記事が当てはまらないケース
- 大型テーマパーク 13.4%という数字は構造的なもので、施設単体の施策で埋まる差ではありません。台湾客を主要ターゲットに置くより、他市場との配分を見直すほうが現実的です
- すでに単価が高い施設 本記事は平均の話です。企画展や体験で単価を取れている施設には当てはまりません
- 購入率は入場者数ではありません 「その費目にお金を使った人の割合」であって、来館者数でも入場回数でもありません
- 城・図書館・公民館・プラネタリウムを含む数字です 美術館と水族館だけの値ではありません
まとめ
台湾人は観光施設に来ていないわけではありません。美術館・博物館・動植物園・水族館の利用率は30.0%で、アジアの主要市場ではシンガポールに次ぐ2位。韓国のほぼ2倍です。
来ていないのはテーマパークで、「13.4%」対「22.2%」。娯楽のなかで最大の差がついています。
そして本当の差は単価に出ます。来館率は互角なのに、1人あたりの支出は0.72倍。台湾客に対して考えるべきは、集客ではなく単価です。
ここから先は、公表統計では埋まらない部分になります。自館に来ている台湾人が何を見て来たのか、館内で何に迷っているのか、繁体字の情報がどこで途切れているのか。自館のデータと一度突き合わせて見られたら何か答えが見つかるかもしれません。

