2025年の訪日外国人客数は約4,268万人、旅行消費額は約9.5兆円と過去最高を更新しました。インバウンド市場は「客数の拡大」から「体験の深化」へと転換するフェーズに入っています。その中で台湾人リピーターは、有名観光地を卒業し、地方の日常や移動そのものに価値を見出すようになっています。本記事では、台湾人の移動行動データを読み解き、鉄道・交通インフラが「移動」を「旅の目的」へと変えるための3つの実践プランをご紹介します。
インバウンド市場の実態:3つのデータが示す構造転換
出典:マナミナ「2025年訪日外国人の年間動向と2026年の予測」https://manamina.valuesccg.com/ / 訪日ラボ「訪日台湾人観光客が抱える交通手段の悩みとは?」https://honichi.com/news/2016/05/24/honichitaiwanjinkanko/
訪日外国人の移動手段として「鉄道・モノレール」は約80%と圧倒的な1位を誇ります。しかし台湾人観光客には独自の課題があります。台湾のシンプルなMRT(地下鉄)に慣れた彼らにとって、日本の複雑な路線網や乗り換えは地方周遊への大きなハードルとなっているのです。この課題を解決することが、台湾リピーターを地方へ誘客する鍵となります。以下のダッシュボードで、移動行動のデータを詳しくご確認ください。
台湾人リピーターの移動行動:3つの構造的変化
台湾人観光客の最大の特徴は、訪日回数を重ねるにつれて旅のスタイルが大きく変化する点にあります。主要都市から地方へ、団体から個人へ、そして「移動手段」から「旅の目的」へ——この3つの変化を正確に把握することが、効果的なプロモーション設計の出発点です。
主要都市 → 地方・末端駅へ
訪日回数が増えるにつれ、東京・大阪の有名観光地を卒業し、地方の日常や「道の駅」「老舗の店舗」といったディープな体験へと関心がシフトします。
団体旅行 → 個人手配(FIT)へ
台湾市場はすでに8割以上がFIT(個人旅行)です。自らルートを設計し、自分のペースで動く旅行スタイルが主流となっています。
移動手段 → 旅の目的へ
観光列車や地方路線への乗車体験そのものが目的化しています。「どこへ行くか」より「何に乗って行くか」を重視するリピーターが増えています。
解決すべき課題
台湾のシンプルなMRTに慣れた旅行者にとって、日本の複雑な路線図や乗り換えは大きな不安要素です。この「移動への不安」を解消する情報設計こそが、地方誘客の最大のレバレッジポイントです。出典:訪日ラボ
台湾リピーターを地方へ運ぶ3つのプラン
PLAN 01
フリーパス × モデルコース型プロモーションで「移動の不安」を解消する
単に「お得な交通パス」として訴求するだけでは、複雑な路線網への不安は払拭できません。パスを使って行けるSNS映えスポットや、台湾人が強く期待する「新鮮な魚介類や和食グルメ」と組み合わせた具体的なモデルコースを繁体字で提案することが重要です。
効果的なモデルコース発信の3要素
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フリーパス販売の本質
パスは「移動手段の割引」ではなく、「地方周遊への心理的ハードル除去装置」として設計してください。乗り換えの不安が消えた瞬間、台湾リピーターは自ら地方へと向かいます。
PLAN 02
OTA連携 × デジタル事前予約で「出発前に確約」する
台湾社会でもデジタル化が急速に進展しています。中国向けのWeChat Pay等に割いていたリソースを再配分し、台湾で圧倒的に普及している「KKday」や「Klook」といった海外OTA(オンライン旅行代理店)でのチケット販売・特集記事掲載へシフトすることが不可欠です。
出典:まちあげブログ「台湾向けインバウンド市場を攻略!自治体の施策と成功の秘訣とは」https://machiage.microad.jp/blog/27-taiwan-inbound
KKday・Klookへの出品と特集掲載
台湾人が旅行前に必ずチェックするOTAプラットフォームに、フリーパスやモデルコースを繁体字で出品しましょう。出発前に母国語で交通手段を確約できる安心感は、個人旅行者にとって強力な後押しとなります。
「中国向け」決済から「台湾向け」決済へのリソース転換
WeChat Payなど中国向けに設計されたキャッシュレス施策のリソースを、台湾人が実際に使う決済手段へ組み替えることが急務です。
台湾人旅行者の決済行動は日本の観光客と近く、Visa・Mastercard・JCBなどの国際ブランドのクレジットカードが主流です。なかでも台湾ではJCBカードの普及率が高く、JCB加盟店・JCB対応券売機の整備は直接的な取りこぼし防止につながります。
さらに見逃せないのが、PayPayとの連携決済です。台湾の主要モバイル決済サービスである全支付(PXPay)・街口支付(JKoPay)・玉山Walletは、いずれもPayPayと提携しており、台湾人旅行者は自国のアプリを使ったまま日本国内のPayPay加盟店で決済できます。すでにPayPayを導入している交通・観光施設は、追加投資なしで台湾人の「使いやすい店」として選ばれやすい立場にあります。「PayPay対応」の一言が、台湾人への強力な訴求になる時代が来ています。
加えて、近年の台湾人旅行者の間ではiPhoneのウォレット機能にSuicaを登録し、オンラインでチャージして使うスタイルが広まっています。特に注目すべきは、JCBカードの10%還元キャンペーン期間中に、Apple Pay経由でSuicaへチャージする台湾人が急増したという実例です。台湾の日本旅行系インフルエンサーがこの方法をFacebookで紹介したところ大きな反響を呼び、「円安+還元キャンペーンのタイミングでまとめてチャージする」という行動が台湾人旅行者の間でトレンド化しています(参考:台湾有名ブロガーによるFacebook投稿)。Suica対応の改札・店舗は、こうした層にとって摩擦ゼロの移動・購買体験を提供できます。
「中国と台湾は同じ」という誤った前提での施策設計が、台湾客の体験を静かに損ねています。決済の多様化は今や「対応していれば加点」ではなく、「未対応なら離脱」の時代です。
PLAN 03
Threads × SNSリアルタイム発信で「今行きたい」を生み出す
台湾のFacebook利用率は90.8%、Instagram利用率は70.6%と極めて高く、さらに近年はThreads(スレッズ)が爆発的に普及しています。企業公式の堅いトーンではなく、「小編(シャオビェン=SNS担当者キャラ)」の感覚で親近感のあるリアルタイム発信を行うことが効果的です。
出典:まちあげブログ「台湾向けインバウンド市場を攻略!自治体の施策と成功の秘訣とは」https://machiage.microad.jp/blog/27-taiwan-inbound / ※Threadsの活用は弊社独自のトレンド予測に基づくアイデアです
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追加提案:鉄道 × レンタカー「ハイブリッド戦略」で地方消費を最大化する
鉄道インフラが行き届かない地方エリアでは、二次交通の整備が訪日リピーターの地方回遊を左右します。ここに、大きなビジネスチャンスが存在します。
訪日1回目→6-10回目
レンタカー利用率
レンタカー利用率
訪日回数が増えるほど、台湾人はレンタカーを選ぶようになります。大きな荷物を抱えた移動ストレスが解消されることで、団体旅行では立ち寄らない「道の駅」「老舗の店舗」への訪問が増え、地域での消費額を増大させる効果が期待できます。
実際に、三陸復興国立公園の「みちのく潮風トレイル」における鉄道とトレイルの組み合わせや、群馬県安中市の「EVレールカート」を活用した二次交通化など、サステナブルなモデルが成功を収めています。地方の鉄道駅をハブとし、そこから先の二次交通をパッケージ化して提案することが、台湾リピーターを地方へ誘客する強力な一手となります。
出典:土木学会論文集「観光統計およびETCの個票データを用いた訪日外国人旅行者のレンタカー利用に関する研究」/ やまとごころ.jp「台湾市場からの訪日客地方誘致と消費拡大の一手『レンタカーツーリズム』の可能性」/ 国土交通省「サステナブルな観光コンテンツの実践に向けた事例集」
まとめ:台湾リピーターにとって「移動」は目的地です
台湾人リピーターは、訪日回数を重ねるたびに旅の解像度を高めています。有名観光地を卒業した彼らが次に求めるのは、移動の過程に宿る「日常の日本」との出会いです。鉄道・交通インフラが担う役割は、単なる「輸送」ではありません。移動体験そのものを設計し、沿線の価値を一つの旅として編み直すこと——それが台湾リピーターの心を掴む、唯一の競争優位となります。