複数の店舗を持つ飲食企業にとって、訪日客はもう「一部の店舗で起きていること」ではなくなりつつあります。
浜銀総研の推計では、2024年の外食産業の市場規模に占める訪日外国人の飲食費は6.0%です。コロナ禍の期間を除けば、毎年上がり続けています。
そのなかで台湾は、2025年に676万人が日本を訪れた市場です。
出典:JNTO「訪日外客数(2025年12月推計値)」報道発表資料(台湾の2025年累計 6,763,400人)
観光庁の調査では、台湾からの旅行者1人あたりの飲食費は40,169円で、旅行中の支出の21.8%を占めます。平均の泊数は6.5泊なので、単純に割ると1日あたり6,000円強を食事に使っている計算です。
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」 30〜31ページ(台湾・一般客、全目的)
この記事では、台湾から来る人が誰と来て、何を頼み、いつ来るのかをデータで確かめます。そのうえで、個人店ではなく、本部が複数の店舗をまとめて判断できる企業が、どこから手をつけるかを整理します。
誰と来るのか:半数近くが家族連れ
観光で来る台湾人の47.3%は、家族・親族と一緒
単位:% 観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年 図表1-17
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」 9ページ 図表1-17(国籍・地域別、観光・レジャー目的)
台湾は47.3%で、全国籍・地域の35.0%を12ポイント上回ります。香港の38.5%、韓国の32.1%、中国の32.0%と比べても高く、東アジアの4市場のなかでは飛び抜けています。
なお、全市場で最も高いわけではありません。フィリピンは50.9%、ベトナムは48.8%で、台湾より高くなっています。ただ、台湾は訪日客の数そのものが多い市場なので、家族で来る人の数で見ると、飲食店にとって大きな市場です。
家族客は、個人店に入りきらない
家族・親族との旅行は、夫婦に子ども、あるいは祖父母を含めた3世代になることもあり、1組の人数は夫婦や友人同士より多くなりやすいと考えられます。同行者の人数そのものは調査に出ていませんが、4人を超える組が来たとき、カウンター中心の小さな店や、2人席を並べた店では一度に受けきれません。
ここが、複数の店舗を持つ企業にとっての切り口になります。ボックス席や座敷、個室を持つ店舗は、個人店が断らざるを得ない家族客を、そのまま受けられる立場にあります。
台湾人の旅行者が、旅行が始まってから役に立った情報として2番目に挙げたのは「飲食店」(48.3%)でした。1位は「交通手段」の66.3%です。現地で店を探している人が多いことは、この数字からも読み取れます。
ただし、人数が多い組ほど、出発前に店を決めています。4人、6人と増えるほど、着いてから空いている店を見つけるのが難しくなるためです。日本の食事を楽しみに来る人は多く、現地で探して入れなかった、という事態は避けたいと考えます。台北で台湾の人と仕事をしてきた実感でもあります。
つまり飲食店の側から見ると、出発前に予約を受けておく「旅前」の施策が効きます。
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」 30〜31ページ 台湾の旅行情報ランキング(旅行出発後、複数回答)
訪日客の多い店舗で、出発前にネットで予約できる体制を作っておく
台湾の人が日本の飲食店を予約する経路は、すでにいくつもあります。自社の予約ページが日本語だけなら、出発前に決めている層は、予約できる別の店に流れます。
| 予約の窓口 | 使いどころ |
|---|---|
| 食べログ 多言語版(日本) | 繁体字を含む多言語で訪日客の予約を受けられる。条件を決めればキャンセル料も請求できる |
| KKday(台湾) | 台湾で広く使われている旅行予約サイト。2024年10月に食べログと提携し、日本全国42,000店舗以上を16言語・16通貨で予約できる |
| inline(台湾) | 予約と順番待ちをまとめて管理する仕組み。日本の店舗も導入していて、多言語で海外からの予約を受けられる |
| TableCheck(日本) | 多言語に対応した予約システム。大型店やミシュラン掲載店での導入が多く、大人数の予約管理に向く |
出典:食べログ「インバウンド予約のご案内」、KKday「食べログと提携し、インバウンド向けグルメ予約サービスを強化」2024年10月15日、inline「OpenTable」、TableCheck「インバウンド人気店での活用例」
どの経路を使うにしても、決めることは同じです。訪日客の多い店舗から順に、繁体字で予約できる窓口を用意し、4人以上の組を受けられる時間帯を予約枠として開けてください。当日に来る家族客のために、2人席をつなげて使える配置も残しておくと、予約と飛び込みの両方を受けられます。
献立を、取り分けて食べる前提で組み直す
家族で来る人たちは、1人1皿より、大皿を囲んで分けるほうが自然です。1人前の定食やコースしかない店は、人数分を頼むか、別の店を選ぶかの二択を迫ります。数人で分けられる盛り合わせや、人数に合わせて量を選べる品を、訪日客の多い店舗の献立に入れておくと、家族客が注文しやすくなります。
何を頼むのか:同じ卓に、牛肉を食べない人がいる
牛肉を避ける習慣は、今も残っている
台湾では、かつて農耕に牛が欠かせなかったことから、牛肉を食べない習慣が根付いていました。日本台湾交流協会の機関誌『交流』には、高齢者を中心に今でも牛肉を食べない人は多く、若い世代でも家庭環境の影響で牛肉に抵抗を感じる人がいると書かれています。
牛肉を食べない人がどのくらいの割合でいるかを示す統計データは実はないのですが、牛肉麺のように台湾で広く食べられている料理もあるので、「台湾人は牛肉を食べない」とひとくくりにするのは誤りです。
家族客では、1人の事情が卓全体の選択になる
この習慣が飲食店にとって重いのは、先ほどの家族客の多さと重なるからです。
1人旅なら、牛肉を食べない人は牛肉の店を選ばないだけです。家族で来ていて、祖父母の1人が牛肉を食べない場合、その家族は牛肉以外を頼めない店を省きます。店から見ると、1人の事情で卓全体の売上がまとめて消えます。
一方で、訪日客が日本で最も満足した飲食は「肉料理」が32.5%で1位です。2位はラーメン19.7%、3位は寿司13.7%でした。肉料理を目当てに来る人は多いということです。
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」 22ページ 図表4-4(全国籍・地域、単一回答)。台湾だけの数値ではありません。
牛肉が中心の業態でも、同じ卓で牛肉以外を頼めるようにする
焼肉やすき焼き、しゃぶしゃぶなど、牛肉が看板の業態ほど、この点が効きます。豚・鶏・海鮮で同じ体験ができる品を、同じ卓で頼める形にしておくと、家族のなかに牛肉を避ける人がいても店を選んでもらえます。別の献立を用意するのではなく、同じ鍋や網を囲めることが大事です。
料理に牛肉が入っているかを、注文の前にわかるようにする
牛肉を避ける人にとって困るのは、見た目で分からない料理です。だしやソース、ひき肉、コロッケの中身。牛肉を使っている品に印を付けるなど、注文する前に確かめられる形にしておくと、店員に一品ずつ尋ねる手間がなくなります。ホールの負担も減ります。
いつ来るのか:台湾の連休と、朝
訪日の山は、台湾の暦で動く
JNTOの月別の統計を見ると、台湾からの訪日客は台湾側の連休に合わせて大きく動いています。
| 2025年 | 訪日台湾人 | 前年同月比 | JNTOが挙げた主な理由 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 593,400人 | 20.5%増 | 1月下旬からの旧正月、スノーシーズン、地方路線の座席数の増加 |
| 10月 | 595,900人 | 24.4%増 | 10月に3連休が3回あったこと、地方路線の増便など |
日本の繁忙期は、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆です。台湾からの客が増える時期は、これと重なりません。旧正月は年によって1月から2月の間で動き、秋の連休も曜日の並びで3連休になるかどうかが変わります。
シフトと仕入れの計画に、台湾の祝日の暦を重ねる。訪日客の多い店舗では、日本の暦だけで人員や食材を組むと、台湾の連休の週に足りなくなります。台湾の旧正月と秋の連休の日付を、毎年、本部の年間計画に書き込んでください。曜日の並びで3連休が何回あるかによって、同じ10月でも客の数は変わります。複数の店舗を一括で計画している企業ほど、この差を一度に反映できます。
朝も、外で食べたい
もう一つの時間帯の話です。台湾・香港の人を対象にした調査では、「できればしっかり食べたい」57.9%と「絶対にしっかり食べたい」13.2%を合わせて、7割強(71.1%)が「日本旅行中の朝食はしっかり食べたい」と答えています。朝食を食べたい場所の1位は「ローカルレストランや喫茶店」の68%で、「宿泊するホテルでモーニングサービス」の67.4%をわずかに上回りました。
出典:ジーリーメディアグループ「台湾人・香港人1738人に食事に関するアンケート」2025年8月27日発表、6月20〜27日実施。台湾と香港の合計の数値で、リリースには台湾だけの数値は載っていません。
ホテルの朝食とほぼ同じ割合で、ホテルの外の店が選ばれています。ホテルの多い地域では、朝の時間帯に店を探している人がいると考えられます。
ホテルの近くの店舗で、朝の営業を試す。全店で朝の営業を始める必要はありません。ホテルが集まる地域の店舗を選び、期間を区切って朝の営業を試してください。もともと客席が空いている時間帯なので、家賃や設備は増えません。人員の手当てと、朝に出せる献立が組めるかどうかが判断の分かれ目です。
どの店舗から始めるのか:全店ではなく、選んで集中する
ここまでの話を、すべての店舗で同時に進める必要はありません。訪日客が来ている店舗と来ていない店舗の差は、立地によって大きく開きます。
難しいのは、どの店舗に台湾からの客が多いのかを、本部が数字でつかみにくいことです。
手がかりの一つが決済のデータです。JCBは、2025年に台湾からの訪日者の約3人に1人がJCBを利用したと発表しています。
この記事の前提が当てはまりにくいケース
- 1〜2人で食べる前提の業態 カウンター中心の店や、1人前ずつ出す業態では、家族客の多さが売上に結びつきにくいかもしれません
- 単品を回転で売る業態 ラーメンのように1杯の価格に上限があると言われる業態では、訪日客が増えても利益が残りにくいという指摘があります。席や献立の見直しより、回転の設計のほうが課題になる可能性があります
- テイクアウトや軽食が中心の店 客単価が上がりにくく、ここで挙げた施策とは相性がよくないことがあります
- 全国籍・地域の数値を含みます 「最も満足した飲食」は台湾だけの数値ではなく、朝食の調査は台湾と香港の合計です
まとめ
台湾から観光で来る人の47.3%は家族・親族と一緒です。香港・韓国・中国を上回り、東アジアの4市場のなかで最も高い割合です。
家族で来る人たちは、4人以上で座れる席と、取り分けやすい献立を探しています。家族のなかに牛肉を避ける人がいれば、牛肉以外を同じ卓で頼めない店は卓ごと選ばれません。そして、来る時期は日本ではなく台湾の暦で動き、朝から外で食べる人もいます。
どれも、個人店では手が届きにくい話です。席の配置、献立、営業時間、店舗ごとの優先順位を、本部がまとめて決められる企業ほど、台湾からの家族客を取りこぼさずに済みます。まずは訪日客の多い数店舗から、席の数を数えるところから始めてください。





